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パネリストの紹介:漢字指導法研究会委員長

「廬・謁・帥・帥・嚇・朕・逓・畝・銑・逓・璽・嗣…これを小学生に教える。いったい、どういう教育的意義があるのか、十分な検討がされているのなら公表してほしい」と語る、漢字指導法研究会委員長 。著書「たのしく学ぼう漢字」は全国の先生に親しまれ、ベストセラーに。その指導方法は教科書に採用。漢字指導30年の大ベテラン。

パネリスト漢字指導法研究会委員長の発言

理科専科をしていたが

元々は理科教師を小平市でしていました。どこのクラスの子ども達も理科の教科書がちゃんと読めない子が多いという実態を知りました。これは、大変なことだなという問題意識をそこから持ち始めました。

日野市に異動しても、やはり、教科書の漢字が読めないという実態がありました。そこで、一生懸命、漢字の指導をしました。100点取るまでやったのですが、1週間経ち,1ヶ月経つと、もう忘れちゃっているんですね。自信を無くして、教師を辞めたくもなりました。

漢字が子どもに難しすぎる

僕の指導法が悪いのかなとずっと思っていましたら、元・都立大の教授で大久保忠利さんという方がいまして、奥様が国立国語研究所の研究室の第1研究室室長でしたが、悩んでいますと、「それは、漢字が難しすぎて、子どもを受けいれないのだ。国立国語研究所の調査をはじめとして、あらゆる調査の結果が君のクラスの結果と同じだよ」と言われました。諸調査と僕のクラスの結果を比べてみますとまったく同じ結果を示しているではありませんか。「あなたもそんなに悩むことはない。」というような、こういう学者に出あったものですから、それでは、このことを研究してみようということで、国語科の研究に移り、これまでしてきました。

品川区の提案(1)

今回、品川の教育委員会が漢字教育の提案してきました。このことは、品川区だけの問題ではなく、全国の問題に拡がっていくと思うんです。それで、漢字研究してきた者が黙って見ていたら、みんな罪悪を犯したようなことをしたことになるので、品川のホームページを見てから、品川の議員さんにメールを送ったり、資料を送ったりして、交流しながら品川区議団のHPに見解を載せて戴きました。

品川区の提案を検討する中ではっきり分かってきたことですが、品川の教育委員会は本当に大変な事を提案したなという思いが深くなってきております。

今回の品川区の教育委員会が提案したその元にしたのは文化審議会の答申でした。

文化審議会の答申

それは、廬・謁・帥・帥・嚇・朕・逓・畝・銑・逓・璽・嗣・・・・・を小学校で読めるようにする?
というのです。

え、まさか?こんなに難しくて普段、ほとんど使わない漢字を読めるようにする?うっそーと言い出したくなります。嘘では、無いのです。しかし、難しい漢字は、まだこのほかにたくさんあります。たとえば、一部を紹介しますと嚇・朕・逓・畝・銑・逓・璽・嗣・屯・候・拷・錘・款・畔・猶・窯・桟・嫡・陪・寡・劾・繭・宰・硝・漸・・・・・・・・・・・などです。これらは、常用漢字1,945字の中の漢字です。この常用漢字が告示された時、国語教科書を発行している会社(東京書籍・教育出版・光村図書・学校と書・三省堂)5社から、「中学校の学習に不必要な漢字・中学生の言語生活になじみのない漢字・機能度の低い漢字・一般社会で使用頻度の低い漢字などの基準から、字種を選択し」として、「新出扱い」にしないことに決められた漢字なのです。これらの難漢字を含む「常用漢字の大体を小学校で読めるようにする」という答申を文化審議会が今年の3月出しました。この答申をもとにして、早くも、出されたのが、品川区の小中一貫の漢字カリキュラムなのです。そのこのことが、次のようになって出てきています。

品川区の提案(2)

それは、小学校3年生の読めて書ける漢字を、現在の200字から85字増やして285字にする。

4年生は、現在の200字から100字増やして300字にするという提案です。

これらは、3・4年生の事ですが、当然、他の学年でも詰め込みになっています。現在でも、漢字が多過ぎて、大変だというのに何でこのように漢字増やしをしてくるのでしょうか、その事を皆で考えていく事が、この問題を解決して行く決め手になると考えますで、今回は、このことについて述べてみたいと思います。

常用漢字の中の難漢字

常用漢字のなかにある漢字の一つである「廬」というこの漢字ですけれど、僕はこの漢字は書けませんでした。この模造紙に書くに当たって、辞書で引いて、辞書を見たんですけど、小さくてどのように書くか見えないのです。虫めがね見て、この模造紙に写しました。こういう漢字を、文化審議会は小学生に今度、教えるようにと考えて、方針を出しました。ある言語学者が、「僕は、そういう難しい漢字は、辞書を見て、調べて、書いています」とテレビで話していたことがありますが、言語学者でさえこうなのです。「これを小学生に」教えるということなのです。

文化審議会や品川区の教育委員会は、常用漢字の中には、このような普段、使われないような難漢字がありますが、これらの漢字1字1字にについて、どういう教育的意義があるか検討したのでしょうか。検討したとしたら、どういう教育的意義があるのか公表して欲しいものです。もし、検討抜きにこのような方針を出されたのなら、これから、検討をしてください。

前倒し

品川案について見ていきましょう。

そのレジュメの中にありますけども(これは、品川区議団のホームページに載ってるものとほぼ同じなのですが)、

「小学校3年生で今まで200字書かせていたのを85字増やして285字。4年生で100字増やして300字というふうな案を作成しています。」

この案に対して「前倒しになる。」と沢田議員と中塚議員が区の教育委員会に質問をしますと、若月教育長は「・・・・・、ですから、あまり前倒しと言うと事ばかりを過度に強調されてしまうと、区民の方々に、小中一貫校のイメージが、若干偏ってしまう印象をもたれうまくありませんので、それは一つ、よろしくご配慮戴ければと思います。」と、答弁しております。

子どもの実態

僕らは漢字指導研究を20数年間、公立と私立の先生が一緒になってきました。私立の先生方も、「とにかく漢字が多くて困っちゃう。漢字指導に時間かかかって、読解の指導や作文の指導の時間がとれない。」など悲鳴に近い声が最近、出てきています。

こんな実態ですが、其の事が、更に大変になる案を今度、品川区は、出してきました。こういう案を出しても、区民の指示を得てやっていけると考えて提案してきたのです。

このことは、子どもの実態を知っている僕らの方にも、まだ、弱さがあるのです。子どもの実態に基づいた意見をもっと公表していかなければならないのです。

齋藤孝氏の考え

世間では、こういう事もあります。現在、かなり影響力がある斎藤孝氏は、文部科学省委嘱 文化庁主催「平成13年度・国語施策懇談会」で、「国語力を高める具体的提言」として、『声にて出して読む理想の国語教科書』を提起しています。氏はこの中で、「漢字は書き取りを徹底して反復すれば、少なくとも学年の配当漢字を身につけさせる事ができる」

と述べています。これなどは、反復中心主義の考えの典型です。この批判は、『国語の授業』NO,175・2003年4月号(一光社)で書きましたので、詳しくは、そちらをご覧下さい。

陰山英男氏の考え

また、陰山英男氏もかなり有名になっている方ですが、「学年の配当漢字は、ゴールデンウィークまでに教えてしまう」と述べ、著作の表紙に「徹底反復」と堂々とお書きになっております。氏のホームページでは、

「私は2週間で新出漢字の指導を終えるということを提唱しました。そして、そのための教材として、徹底反復漢字プリントを出しました。これはまず、1年間に覚える新出漢字の混じった例文を何度も読み、だいたいを頭に入れ、そしてその後、その例文の問題をコピ−して何度も繰り返して練習するというものです。7回も反復練習をすると、だいたい子どもは覚えて、書けるようになるものです。」

と述べています。そして、この後、夏休みは、復習と予習。秋からは、熟語をこなす。年度末は、まとめの問題集という計画を述べています。

教科書に生かされ出した僕らの考え

このような状況の中で、僕らはある教科書会社、2つの教科書会社の1年生から6年生までの教科書の教師用指導書を仲間と一緒に書きました。僕らの研究は、教科書カリキュラムにも生かされるようになってきています。僕らの研究が教科書で生きだしたのです。しかし、まだまだ僕らの研究がみんなのものになっていません。そこから、こういう案が出してきているので、責任を感じます。

品川案の根拠

次に、どうして、こういう案が出てきたかについて考えて見ます。皆さんのレジュメの中に書いてありますが、文科省や文化審議会、品川区、あるいは学校現場の中で、「漢字指導というのは、読みと書きと意味とを教師がパッと話すものなのだ」という漢字指導の考えがあるのが、根源です。「そのようにして、1つの新出漢字を3分ぐらいで、ぱぱっと教えられる。」という考えがあるのです。このことは、教師用指導書でもそのうように書かれているのが多いのです。

それで、僕らは指導書を依頼されたときに、「今までのような指導書の内容ならば書きませんよ。」と言ったんですね。「ちゃんと今までの漢字指導研究会の研究の積みあげを載せるものでなければ書きません。」と言ったわけです。其の合意の上で書きました。

繰り返しますが、漢字指導は、読みと書きと意味をささっと話して、説明して、できちゃうと思っている考えが、今、日本中のある訳です。この教え方で指導すると子どもは、漢字に対して負の気分を持つわけです。それは、教え込みだからです。このマイナスの気分は、漢字の学習に対していい気分をもっていないので、漢字学習から離れようという気持ちになるのです。学習者をこのような態度にさせては、いけないこと、それは、教育学の基本中の基本です。

漢字学習も楽しく

漢字を楽しく学ぶ、そういうことを先ず僕らは、大切にしなければならないのです。(その事が頭にあって、僕らの出版した本は、『楽しく学ぼう漢字』ルック・・・なのです。)

楽しく学ぶ漢字の学習は、そのレジュメの中にもありますけども、漢字の意味、その漢字の音読みと訓読み、漢字の形、それから漢字で漢字語を作る(熟語のことなのですが、漢字語の方が分かりやすいので漢字語といいます。)それから、その漢字を使って、実際、文を作ってみるなどの学習があります。これらの学習は、子どもの生活や学習と関連させ、結び付けて指導します。生活や学習と結びついた漢字指導が必要なのです。教師がぱぁっと3分前後で説明する漢字指導では、本当の漢字力は着かないことが分かってきたのです。其の例として、高学年になったのに、作文や日記で低学年の漢字が使えないの、ひらがなばかりで書いているという話があります。では、実際の授業例を述べてみます。

授業例

例えば「物」という字を教える時に、

(1)子ども達に「物」という字を見せて、「この字どこかで見たことありますか」と聞きます。子どもたちの中から「動物園で見たよ。」とか「物産展で見たよ。」とか出てきます。「あぁそうか。ダレダレ君は、物産展で見たのか。」、「誰ちゃんは、動物園で見たんだ。」と聞いている子は、判断します。これが、生活とのに結びつきです。

こいうふうに生活と結びつくと、その漢字の使われ方が分かり、意味も少し分かって来ますよね。こいうことは、子どもにとっては、印象に残るので、忘れようとしても忘れないのですね。

(2)次は、更に深い意味の学習に入ります。「物産展っていうのはどういうものなのかな?」って、誰かが発表したことに疑問をもったりして、問題意識を持ちますよね。それを、辞書で調べてみます。辞書上の意味をはっきりさせる訳です。「その土地でとれたものを展示している所」とまとめます。このようにして、その漢字の生きた使われ方を学び、その漢字の概念をほんの少し、身に付けていきます。

(3)次は「物」という漢字の成り立ちの学習です。そのレジュメの中に書いてありますが、物は牛偏とこのつくり(勿)で、組み立てられています。漢字は、どのような組み立てでできているかを理解しておく事は大切です。この組み立てをしどうしたら漢字の成り立ちに触れます。「勿」は、(絵を描きながら)色々な色の切れで作った吹流しです。遠くから見ると色が混じり合ってはっきりしないので、これだ、とはっきりしないものという意味を表します。それに「牛」は、牛の代表・動物の代表、物の代表という意味で、「勿」と一緒になり、今は、動物その他の色々な「もの」を表すようになりました。というように、説明をします。

(4)そして、次は、筆順です。牛はもう学習してあります。勿も学習済みです。けれど、簡単に復習します。

次は、「物」を使った漢字語(熟語)の学習です。子どもたちにこれは、発表させます。「動物園」だとか「物産展」だとかいろいろでてきます。物品、物々こうかん、物おぼえ、物語、物干し、物持ち、くだ物、売り物、買い物、しな物、たべ物、拾い物、乗り物、・・・、・・・・・・。などが、こどもの発表から出てきます。

(5)次は、「物」という漢字を使って文を作らせます。文作りと言います。

この文作りの学習で、子ども達に文を作らせますと、「日野市では、物レールが走っています。」という文を作ったりします。

(6)次は、作った文を発表と話し合いです。前の文は、この「モノレール」のモノに「物」という字を当てているわけですね。この発表に対して、友達が、「それは違うんだよ。モノレールのモノには、意味が違うから、物という字は使えないのだよ」と意見を発表します。いろいろそこのところで意見が交わされる。そういうふな討論の中で、少しこの「物」という漢字の意味がわかってくる。僕らの研究を指導してくれた大久保忠利さんは、

「あんたち50歳ぐらいになって、下の方に少し白い毛が出て来たその年になって、自由にその漢字を自由に使えるようになったんだよ。子どもたちは、初めてなんだよ。あんた達は100回も200回もその漢字にふれている。そのようにして漢字を身に付けてきた。でも、子どもにとっては始めてなのだら、外国語の学習をしているのとほぼ同じなんだよ。」

と言われたことがあります。

こういう学習が全然できていないのが、今までの指導書の展開例です。だから、文科省も品川の教育委員会もそれが当たり前だと思ってこのような案を出しているわけです。しかし、案を出すのなら、教育委員会の人だって学んで欲しいのです。僕らは、学校に呼ばれて、講師として行くわけですね。校長先生や普通の先生方は、僕らの話よく聞いてくれますよ。教育委員会は、ちゃんと調べ、聞くべきところに聞かないでやっている。こういうのをお役人仕事というのですかね。話が、それました。

このようにして、指導していくと、1つの漢字で15分はかかります。ですから、3年生で285字とか、4年生で300字なんてとんでもないのです。

今後は、テレビで公開討論などやりたいと思いますけども、企画されれば・・・・。でも、最近のテレビ界では実現しないでしょうね。20年前は、僕もテレビで、こういう話をしたことがありますが。

まとめ

まとめにはいりますが、このように丁寧に大切な漢字を指導して、子どもたちが必要な、大切な、基本の漢字をきちんと身に付けさせることが重要なのです。これらの漢字を僕らは、教育基本語彙とも言っています。1945字の常用漢字の全部を教えるのではなく、1945字の常用漢字の中に含まれるのですが、その中の大事な基礎・基本の漢字を600字ほどに選定して、指導するのです。    

600字ほどに選定(1)

そういう実践を、僕らの研究書である『たのしく学ぼう漢字』を読みまして、千葉県の先生が、実践してくれました。この先生は、2年生の漢字は160字あるんですけど、重要漢字67字を選定して指導しました。教師がクラスの子どもの実態から、67字に精選して教える必要があると感じてやったのです。その情熱は、実践記録から伝わってきます。『子どもと教育』2004年の9・10・11月号に載っています。その先生は、僕らが600字選んだ中から、更に厳選して、2年生で67字に選定して指導したわけです。

この選定は、非常に大切です。どうして大事かというと、例えば、このチュウイの「意」という漢字は、3年生で出てくるんですが、意外とか意見とか意味とか、注意、用意、意気、意味とか意識とか意図とか、このような教育基本語彙、教育にどうしても必要な漢字語を作るのです。ですから、音楽や体育やなど、どの教科でも使う漢字語なんです。これを読めて、書けて、使えるように徹底する必要があるのです。僕らは、この事を何と言っているかというと、手首化と言っています。全ての子どもに身に付けさせる必要があるのです。

僕らの主張の目指すも、どのような事からこれを主張しているかと言えば、こうした事をきちんとやることが、9歳の壁を乗り越えられる抽象的思考とか概念的思考ができるようになる基礎になるからです。また、論理的思考ができるようになる基礎になるからです。この事は、落ちこぼしを出さないことになります。ですから、大事で丁寧に述べなければならないのですが、時間が来ましたので、又の機会に話させてもらえればうれしいです。

600字選び(2)

この600字選びですが、僕らは、日野児言研として1年かけて、休日の1日中、朝から夕までやりました。当時は、教育漢字は996字でした。その1字1字検討してやったわけです。その基礎にしたものは、
(1)児童言語研究会の教育基本語彙案
(2)大久保忠利氏の案
(3)関可明・見城慶和案
などでした。

今度の文化審議会の答申もこのように1字1字検討して出したのか疑問です。

僕らの研究は、僕が個人でやっているわけじゃないのです。集団でやっています。教科書のカリキュラム作成にも参考にされています。品川区の案作成者も、どうか、ご検討ください。

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