品川区小中一貫校国語科カリキュラム批判

2005.3.18
国字問題研究会委員長　表現よみ総合法教育研究会代表

�T　文化審議会の基本（文図）と品川区のカリキュラムの基本（文図）の問題点

１　品川区の考えは、文化審議会の考えを基にしたもの

品川区の国語科カリキュラムは、文化審議会の答申（2004･2･3）＊1を基にして作成されています。この文化審議会の答申の中に、この品川区のカリキュラムの３つ目の文図＊２「情緒力・想像力の育成（読む事）、論理的思考力の育成（書くこと）」の基になったと推測できるものがあります。

＊１　文化審議会の答申、

＊４　品川区のカリキュラムの３つ目の文図

この両者がよく似ています。

品川区小中一貫教育教科カリキュラム（案）はこの文化審議会の文図＊１の考えを受けて作成されていると見てよいと思います。この２つの文図の考えとは、どういうものでしょうか、それを見てみます。

２　案のポイントとなっている両方の文図の読み取り

それは

�@ 情緒力・想像力の育成は、おもに、読む事で養い、論理的思考力は、書くことで養うと言うふうに読み取れる両方の文図の書き方です。（文化審議会の答申６ｐの囲みの中の文章に「・・・情緒力を身に付けるには、読むことが基本になること、論理的思考力の育成には、『書く』ことが中心になる・・・・」とあります。品川区の案とそっくりです。）

�A情緒力・想像力は、低学年でおもに養い、論理的思考力はおもに高学年で養うというふうに読み取れる両方の文図です。

その通りです。この読み取りは、正しかったようです。それを見てみましょう。

品川区カリキュラム２ｐ、２段目の囲みの中に

『課題を克服するための基本的な考え方』があります。その一番上段に

『◇発達に応じた能力を目指す。１〜４年生は、「読むこと」の指導に重点をおき情緒力・想像力・（感じる力・想像する力）の育成を目指し、５〜９年生は、「書くこと」の指導に重点をおき、論理的思考力（考える力）の育成を図る。』 ・ ・・・・・・・・・ ・ ・・・・・・・・・ ・ ・・・・・・・・・

とあります。

この内容は、私が読み取った(1)と(2)を合わせたものとほとんど同じです。はたして、この考えは、これでよいのでしょうか。『発達に応じた能力を目指す』というのですが、この提案ではそのようにいう発達と合っていません。

結論から言うと、論理的思考力は、低学年からも、そして、情緒力は、書く事からも育成すべきです。では、その事を次に考えて見ましょう。

３　案では、「１〜４年生は『読むこと』に重点をおき、情緒力を」、「５〜９年生は『書くこと』に重点をおき論理的思考力を」とありますが、これは、妥当でしょうか。そして、「聞く・話す」が脱落していますが、これでいいのでしょうか。

(1)問題点、３つ

１つは、情緒力・想像力の育成は読むことと強く結びつけ、書くこととの結びつきを弱めている事です。

そして、論理的思考力（考える力）は、書くことと結びつけ、読むこととの関係を、事実上、弱めている事です。

２つ目は、情緒力・想像力は、主に低学年で、論理的思考力は、主に高学年で養うと言う考えです。

３つ目は、聞く・話すが、まったく抜け落ちている事です。これでは、聞く・話すと情緒力・論理的思考力の関係はどうなるのでしょうか。

この３つのことは、指導の目標及び内容を決定するにあたって、基になるものですので、どしても、言及しないわけにはいかない事です。それでは、この事について、意見を述べます。

結論から言えば、１つ目は、情緒力の育成、論理的思考力の育成は、「読むこと」「書くこと」の両面からするのが、国語教育の道です。これを、「読むこと」は情緒力、「書くこと」は論理的思考力と分けてしまったことは、理解できません。

２つめは、情緒力の育成、論理的思考力の育成は、両方とも、低学年・高学年でも力を入れるのが、教育の道です。

なぜなら、その学年なりの情緒力・論理的思考力を発達させるのが、学校教育だからです。

３つ目は、話す事・聞くことは、国語科の大切な領域です。この書く領域からの情緒力の教育は、大切です。

それでは、以上、３点について、具体的な例で説明をします。

(2)「情緒力の育成・論理的思考力」の育成は、「読むこと」「書くこと」の両面から、そして、低・高学年で。又、話す・聞くからも。

a 「読むこと」の教育の中でも論理的思考力は育てる

１年生の『大きなかぶ』の冒頭に おじいさんが、かぶのたねを　まきました。 「あまい　あまい　かぶに　なれ。大きな　大きな　かぶになれ。」 とあります。 ここを表現よみするにあたって、子どもたちにどのように音声化（表現よみ）したらよいか、発表させると、 「あまい　あまい　かぶに　なれ」といっているのだから、うれしいそうに、明るい声で言っているように読みたいです。」とか、 「大きな　大きな　かぶになれ」と言っているのだから、元気な声で読みたいです。などの発表をします。この『・・・だから、・・・です。」は、論理的思考力を働かせての発表です。 実際、音声化してみると、発表のようには読めなくて、友達から、「うれしそうに、表現よみをすると言っているのだけれど、・・さんの声は、普通の声で、うれしさが出ていませんでした。」などの助言がでます。ここでも、「・・・・ですが、・・・・でした。だから、・・・・のようにした方が良いとおもいます。」という論理的思考力を１年生で働かせています。 これは、１年生が「読むこと」の中で、論理的思考力を働かせたことの紹介です。ですから、２年生以上では、「読むこと」の中で、論理的思考力をもっと、細かに働かせているのです。 ですから、論理的思考力は、「書くこと」の中でと言っている品川区のカリキュラムは、理解に苦しみます。

ｂ　読むことの指導は、高学年になっても、発達段階に応じた大切な指導があります。

ｃ　書くことの指導の中でも情緒力は育てる

ｄ　書く事の指導は、低学年から重要です。品川区のカリキュラムのように高学年の重点という考えには、理解に苦しみます。

e 低学年からも論理的思考力の指導を

１年生の入門期の実践報告（『子どもと教育』2004年4月号）で、『絵物語から』で、次のように報告されています。

「コトバの持つ概念も学習するほどに広がり、豊かになっていきます。後略・・・」と述べて、概念がつくられていくこと（元・都立大教授・大久保氏の定義では、『概念習得の上向性』）を見事に記述しています。このことは、１年生の始めから、概念の習得が始まっていると言うこの着目です。

概念の習得は、論理的思考力の基礎になります。この実践報告では、１年生の初めからその事を頭に置いて、指導しています。 品川区のカリキュラムでは、論理的思考力は、高学年からといっていますが、これも理解に苦しみます。

f 高学年でも情緒力の育成の教育は必要です。品川区の案では、低学年で、おもにするとあいりますが、理解に苦しみます。

(3)聞く・話すが、この文図からは、欠落し、それらと、情緒力・論理的思考力の関係が脱落しています。

この文図では、情緒力・想像力、論理的思考力をポイントにしていますが、聞く話すとの関連が出ていません。聞く話すの指導をしながらも情緒力・想像力、論理的思考力は、指導します。次に、その一部を述べて見ます。

例えば、相手の話に共感・反感を覚えながら話を聞くということ、これは、情緒力です。

話し手の言葉・表情・態度から相手の意図や気持ちを推察する事は、想像力です。

そして、相手の話を聞きながら、「・・・・と言う事は・・・・・」とまとめる事は、論理的思考力になります。

�U　年間指導導計画表がない

これでは、カリキュラムとは、いえません。

案で示されている目標及び内容をどのような教材で、どのような順序で、どれだけの時間をかけて指導するのか、その計画案が必要です。それが無ければ、目標・内容を、どのように実践で生かそうとしているのか、まったく、見えないのです。

これでは、裏づけがないのです。ですから、これでは、カリキュラムとはいえません。

例えば、提案されている漢字をどのような計画で指導しようとしているのか。その見通しはあるのか、ないのか。わたしは、その見通しは無いと考えます。あるのなら、それを区民に示してください。それが、示せなければ、指導計画とは言えません。このままでは、現場は、混乱するだけです。子どもたちが、犠牲になるだけです。

�V　漢字の案についての意見・・・記述済み（詳しくは、品川区共産党議員団のＨＰをご覧下さい）

具体的には、３年生の２８５字、４年生の300字の読み書きをどのように指導する計画なのですか。その上で、他学年の指導計画を示して下さい。

「視覚がとらえる「絵」という媒体から、子どもたちが自分の五感を使って，感じ、考え、それをコトバとして表現していきたいと考えます。・・・・・中略・・・わたくしは、絵から感じ、発見し、発表できるようにしていきたいと考えます。それは、「絵」という共通の存在をもとにして、その絵が表していることをみんなで探り出し、コトバで確認していくことが、学校で系統的に言語を学習していくための大切な第一歩だからです。たった一つの言葉でも、状況や気持ちの動きによって言い方は違ってきます。又、同じ状況や気持ちの動きも幾つものコトバで表す事ができます。コトバの持つ概念も学習するほどに広がり、豊かになっていきます。後略・・・・・。